和室

「楽しい理科」をめざして

「あなたは何の教科が得意?」
神奈川相模原市で教員をやっていた頃
新学期が始まると、この質問を教室の生徒たちに投げかけてきた。
主要科目では、「理科」と答える子供が圧倒的に多い。
理科は、外でいろんな植物や虫を観察できるから好き。
実験を通して、目で見てわかって面白いから好き。

計算練習や漢字を覚える、正しい文章を書くという日々の積み重ねが、
そんなに必要とされない。

みんなと一緒に、新しい未知に出会える教科。
だから、理科は私の教室で人気があった。

さて、主要五科目ということで、
学力全般について、日本とヨルダンをめぐる、あれこれ。

日本の中・高校生が、時間とお金を「塾」という場で、費やしてきている。
義務教育以外のところで、たくさんの時間とお金がかかっている。

一方で、パレスチナ難民局の学校に通う中・高校生は、
家に帰って集中して学習できるような環境でない。
中学生にもなったお姉ちゃんは、家の手伝いをする方がいい。
家族は大勢いる。一人ひとりに机もなく、電気もくらい。

それなのに、どうしたことか、
主要五科目(母語、数学、英語、理科、社会)の学力レベルは、
塾なし、家庭学習時間ほんの少しのパレスチナ難民局女子中・高校生、
受験地獄の日本女子中・高校生、どっこいどっこいだと思う。

なぜか。
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ヨルダンでは、試験に勝つため授業を行っていることが一因に考えられる。

試験にでるところを効果的に短時間で教えるのは、一方的な暗記型、訓練が一番。


授業は、効率良く点数を稼いでいくための、スキルを身につける場だ。

ここで、ヨルダンでの美術科授業での一コマを紹介したい。

中2美術の授業で「光と影」を扱った。
陰影をつけた鉛筆デッサンは、絵画の基本。
導入で、中学2年生に「木と木に映った影を描こう」発問した。
生徒たちの作品を見て、唖然とした。
絵の技能でなく、木の影がめちゃくちゃ。

ある生徒は、右に木を、左に同じ形をした黒い木の形を並べて描いている。
ある生徒は、下に木を、上にまた同じ形をした木の形を・・・。

かげが実物と、離れてしまっている。
上やとなりに同じ形を描き、黒く塗ればいいと思っている。
なんじゃこりゃ~~。絵の技能以前の問題だ。
この導入を終え、実際の影を観察し描く授業につなげていく。

日本では、「かげと太陽の光」は、小3理科の学習内容だ。
4年生になると「太陽とかげの動き」で、屋上に物を設置し、
一日中かけて一時間ごとの、かげの動きと形を観察する。
そういった体験があるから、日本の中学二年生は、こんな絵を描かないと思う。

こちらパレスチナ難民局女子校では、理科の時間に、
太陽の動きを調べよう、一日のかげの動きを観察しようっていっても、
午前シフトと午後シフトで分かれているのだから無理。

「太陽とかげの動き」の単元だけではない。
理科の時間に、実験しようったって、実験用具が少ない。
動植物や昆虫などに、実際ふれあう機会が圧倒的に少ない。

日本の生徒たちが「楽しい教科」と考えている小学校理科ですら、
ヨルダンでは暗記型。

理科も美術と同じような、問題が横たわっている。
「時間」「環境」「モノ」に制限があるということは、大きな痛手である。

さて、そんな中、またとないチャンスが舞い込んできた。
今学期、実習生が小3理科の研究授業を行うというので、
私も教材作りのお手伝いをさせてもらえたのだ。

単元は、「植物の育ち方をまとめよう」
056_convert_20111221103929.jpg教科書に載っているトマトの絵を大きく拡大して描いた。
「絵や写真を見せるより、とにかく実物が大事。
実物を見て、観察し、
生徒たちに気付かせること。
導入では、教科書を
見せないほうがいい。」

教科書を使わない理科授業というのに、キョトンとしていた。
 
「花のつくり」の教材研究も同じ。

036_convert_20111221103959.jpg「おしべ、めしべ、花びら、がく。
そういう用語を教え込むのでなく、
本物を見せることが大事。」

ヨルダンは花の値段が高いけれど、
生徒たちのため、奮発して自分で花を買ってきていた。
最後に学んだことを復習する、ゲームも取り入れている。



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種を扱った授業では、40分の授業にストーリーをもたせていた。
種なら、簡単に手に入る。
ヒマワリやピーナッツ、トゥルモスやとうもろこし、果実の種。
さまざまな種を使って、子供たちはグループごとに観察する。
種といっても、いろんな形や大きさがあるっていうことを話し合っていた。
いろんな気付きと、意見交換。
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当日、授業を終えて、喜びでいっぱい。抱き合う実習生たち。
あなたたちの頑張りは、私も元気にさせてくれたよ。
ありがとう。


実習生たちの「教育」に対する前向きな姿に、
パレスチナ難民局の教育における、一筋の光を感じた。

神奈川で一緒に働いてきた同僚や同期が教えてくれたこと
学校教育現場で、生徒たちから学ばされたことを、
今、そのままヨルダンに恩返ししている。

限られた環境であり、準備も大変だけれど、
誰もが楽しめ、みんなが主役の理科。
新しい発見に、夢中になれる「楽しい理科」をめざして。

日本もヨルダンも、教育をあきらめない。


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5 Comments

Comment

素敵な投稿でした

私モンゴルで図工を教えていました。小学校中学年の図工の内容の一部は…比率ですよ!長方形の辺が何対何かを答えさせるのです。
その国その国の指導要領によって、図工や美術・技術(モンゴルは同じ単語で小学部図工と中学部以上の技術を指していました。他に中学部以降では「絵画」の授業がありました。)で付けさせたい力は確かに違うのだと驚きました。モンゴルの図工の教科書内容を踏まえた「発想力を育てる授業」、考えるのは大変だったけど楽しかったです。

教科書を使わない理科、子ども達の笑顔と抱き合う実習生がとても印象的ですね。
2011/12/23(Fri) 12:40:47 | URL | クミ(テジョン) [ Edit]

ヨルダン、モンゴル、それから韓国と・・・。

くみちゃん、コメントありがとね。
テジョンのお天気はどうですか?クリスマスイブは、いかがお過ごしですか?
韓国はクリスチャンが多いから、きっとワイワイお祝いしているんだろうな。
こちらは、イスラム教の国なんで、いたって普通の一日。

ところで、美術隊員だったんですか?!
モンゴルとヨルダン、共通する課題と、共通するよさがあるのでしょうね。

ヨルダンにも、ヨルダンならではの美意識、
美しさに対する観点があり、日本や世界スタンダードとは、また違ってとっても興味深いんですよ。

韓国。
大学時代、日本と韓国や中国、アジアの歴史教育のことに興味があり、
アジアの学生たちと話をしていました。
当時(今から15年くらい前)、教科書問題の議論が盛んなころで、
日本とは違った視点を、韓国の学生たちから学ばされたものです。

「祖父が残した問い」
http://kazitabonita.blog133.fc2.com/blog-entry-24.html

日本と韓国、中国、台湾・・・。
それから、モンゴル。どこの国にも、それぞれの歴史を負っているのでしょう。

さて、もうすぐ試験。
それから冬休みだ~!!!

またね。



2011/12/24(Sat) 06:41:20 | URL | [ Edit]

こんにちは。ブログへのコメントありがとうございました。日本では知ることのできなかったモロッコの教育に触れ、残りの任期(あと3ヶ月となりました)をどのように過ごそうか日々考えています。

 「教育に対する前向きな姿」
こちらでも先生により様々ですが、残り3ヶ月、子どものことを思い教育に向かっている先生と一緒に何かできたらと思います。

また今年も図工作品展をやることになりました。モノや時間の制限はありますが、おかげさまでエネルギーをもらいました。
またちょくちょく、よろしくお願いします。
2011/12/26(Mon) 02:35:28 | URL | ao [ Edit]

何て素敵なの!

感動しました。
ありがとう。

実習生どうしの抱き合ってる姿。
何て、何て素敵なんだろう。
ひとつの達成感を感じたのでしょうね。
教育に対するモチベーションが上がっただろうし、教師になる志がずっしりと据えられたことでしょう。
ヨルダンの地に、素晴らしい種を蒔いたね、カズ!!
すごい!!

にしても、彼らは何について感動し、抱き合ったのでしょう。
自分が一つ授業をこなせたという安堵?
子どもが学習に喜びを見出した嬉しさ?
主体的に学習するよさを実感したから?
なんだろう。
願わくば、主体的に学び子どもが考える喜びを味わっている姿に共感し、そのよさを実感できた喜びであってほしい。

私も、そうやって展開できたらいいなぁ。
2012/08/27(Mon) 18:43:49 | URL | migimigi [ Edit]

授業後の安堵・・・

彼らは何について感動し、
抱き合ったのでしょう。
自分が一つ授業をこなせたという安堵?

これが一番だと思います。
それでも実習生はよく教材研究もやっていて、
ベテランの先生たちよりも、はるかに意欲が高かった気もします。
パレスチナ難民の教育も明るい!!


2012/08/27(Mon) 19:41:32 | URL | かずー [ Edit]
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